七言絶句 「環館口號」 と萩生徂徠

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    還館口號   萩生徂徠

    甲陽の美酒 綠葡萄

    霜露 三更客袍を濕す

    須く識るべし 良宵 天下に少なるを

    芙蓉峯上 一輪高し

〔詩 形〕  五言絶句

〔出 典〕 「風流使者日記」

【通 釈】

甲斐の旨酒、それは緑うるわしいぶどうから造られる。
その美酒を含みつつ、はや時は三更(夜半)、霜や露がわれわれの衣服を湿らせる。
ご覧あれ。こんな良い夜はこの世にめったにあるものではない。はるか遠く、富士の上には一輪の月が一きわ明るくかかっているではないか。(それでとうとうその夜は遅くまで酒を飲みつつ、月を賞したのである。)

【語 釈】

甲陽―甲斐の国(山梨県)のこと。甲州。「陽」は山の南という意味

三更―真夜中。今の零時。「更」とは一夜を五分した時刻のこと。
    「初更」は午後の八時、「五更」は午前四時になる。

湿――しめる。水気を含むこと。Fujinimangetu_3

客袍―旅人の衣服。「客」は旅人の事。「袍」は綿入、または長い衣服のことをさすが、ここでは韻の都合上つかったまでで、「客衣」と同じこと。

須識―当然知らなくてはいけない。「須」は「当然…すべきだ」という意味をあらわす。

良宵―良い夜。「宵」はよい。よる。

少――マレと読む。めったにない。

芙蓉峰―富士山のこと。富士の八峰を芙蓉の八葉にたとえたことから、このように呼ぶ。

【参 考】

柳沢吉保が甲斐に封ぜられた後、徂徠と田省吾をその地に行かせ視察させた。その時、この詩を作ったという。
題の「口號」はくちずさむ、という意味。題が「甲斐客中」となっている本もある。なお、出典には題はない。

【作 者】

萩生徂徠。寛文6年(1666)~享保13年(1728)。江戸の人。名は双松。字は茂卿。苦学して学を修め、初めは朱子学を講じたが、伊藤仁斎の古学に対抗し、古文辞学を唱えた。
柳沢吉保に仕え、はじめ微禄であったが、次第に重用され五百石を録するに至った。吉保引退後は私塾諼園社を開き名声が上がった.

(本文は、吟詠教本 漢詩編より抜粋した。)

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